「がん」と告げられた日
診察時間は、わずか15分ほどでした。
担当医の口から「がん」という言葉が出た瞬間、耳の奥がふさがるような感覚に襲われました。
隣に座る主人の方が、きっと戸惑いや焦りでいっぱいだったと思います。
まばたきひとつせず、じっと医師を見つめる主人の横顔が、怖いほど印象的でした。
右肺の影と脳の点
「右肺に小さな影があり、脳にも1つ、点のような影があります。リンパ節にも転移が見られます。
ステージⅣ(4)です。」
そう淡々と告げる主治医。
「今言えることは、手術は不可。これからは内服や点滴による治療を行っていきましょう。」
主人が絞り出すように聞き返しました。
「……生存確率は?」
「3年生存率は40%です。
ただし、病気の進行度によって前後します。あくまでも今の病状からの数字です。」
主治医は画像を見ながら静かに説明を続けました。
隣では、秘書のようなスタッフが医師の言葉を一言一句タイピングしており、
カタカタという打鍵音だけが、診察室に響き渡っていました。
息が詰まるような15分間
隣に座る主人の呼吸が荒く、今にも止まりそうなほど乱れていました。
診察室の空気は重く、わたしはただその場で息を潜めるしかありませんでした。
あの日の、あの空気の澱み――。
今でも、胸の奥に残っています。


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