静かな夜、揺れる車内で夫婦が見つめた現実──肺がん告知から始まる闘いの記録

亡き夫のこと
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義父の怒号が続く電話を、主人は無言で耳に当て続けていた。
ようやく電話を切ると、しばらく天井をにらむように黙り込む。そして低い声で、「仕事に行くよ」とだけ言った。

家にいても考えるだけだと分かっているのだろう。
それでも私が声をかけようとすると、言葉を遮るように「いいから」と。
強がりなのか、現実から目をそらしたいのか、どちらにせよ胸が締めつけられた。

数日後、検査入院。
子どもたちには、まだ「はっきり」とは言えていなかった。

主人が入院して静かな家になった夜、私は子どもたちをリビングに呼んだ。
息が震え、言葉がつまる。それでも逃げられなかった。

「パパね……肺がんだって。」

涙声だったせいか、子どもたちもすぐに“ただ事じゃない”と察した。
息子が最初に叫ぶ。「えええっ!? 治らないの……?」
娘は口を押さえたまま震えている。

「これからよ。パパ、治療がんばるから。」

中学3年の14歳の息子。高校3年の17歳の娘。
ふたりとも受験生の大事な時期。それでも私は嘘をつきたくなかった。

気づけば、3人で抱き合って大泣きしていた。
どれくらいの時間だっただろう。
声をあげて泣き続け、涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになるほど泣いた。

泣き疲れたあと、私はふたりの肩を抱き寄せて言った。

「パパを応援しよう。パパも頑張るから。
だから、あなたたちも自分のやるべきことに集中しよう。
この家は全員で踏ん張るよ。」

娘は受験と部活のラストスパート。
息子も高校受験で不安まみれ。
それでもふたりは、大きくうなずいた。

そして、私はというと――
頭が真っ白で、怒りと戸惑いでいっぱいだった。

なんでうちが?
どうして今?

テレビから流れる明るい笑い声さえ腹立たしく感じるほど、心はぐちゃぐちゃだった。

それでも、前に進むしかなかった。
家族4人で、現実の波に押し流されないよう必死で足を踏ん張るしかなかった。

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